SUMMER SONIC 2017 アイランドステージ / 幕張
紹介
2000年より毎年8月中旬に千葉と大阪で開催されている都市型ロック・フェスティバルのサマーソニック。コンセプトとして、「日帰りでも気軽に行ける」という「都市型夏フェス」を掲げ、都市型にふさわしい商業性を全面に押し出した、勢い偏重のパワーあふれるフェスとなっている。
そのメインステージであるマリンスタジアムの向かいに計画された、若手アーティスト向けステージと屋外飲食店から構成されるアイランドステージエリア一帯の会場構成とデザインを行った。
去年までのアイランドエリアは、チケットを持たない人々もアクセスが出来る屋外飲食エリアとして開放され、なにをせずとも人が集まる状況となっており、装飾的な部分でのみデザインをすれば問題が無かった。しかし、今年からは一般入場禁止となり、日陰の快適さ、以前から数倍の空間の広さ、アクセスのしやすい動線を求められる事となった。ただし、予算は去年と同規模程度との事だったので、その制約の中で何がデザイン出来るのかを慎重に考えていった。
年: | 2017.05~08 |
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用途: | 音楽フェスティバル 野外ステージエリア一帯 |
所在地: | 千葉県千葉市 |
延床面積: | 6000㎡ |
アートディレクション: | カマチカヤ |
会場構成デザイン: | 湊健雄事務所 |
施工: | OMNI http://www.omni-int.co.jp/ |
施主: | クリエイティブマン https://www.creativeman.co.jp/ |
設計・施工期間: | 2017.03~2017.04 |
日陰㎡単価を考えた末のテント格子配置を使って、霧や雲のような空間を作る。
まず、日陰を作る為の㎡単価を安くし、なるべく広く日陰スペースを確保するには、どうしたらよいかを考えた。試行錯誤する中で、四角ハットのテントをレンタルするのが一番日陰㎡単価が安い事が分かる。なので、資材設営会社にストックされている規格品の小さいテントを、とにかくサイズ違いがあっても並べる事とした。
しかし、屋外空間6000㎡の内、施工会社の全ての四角ハットテントを出しても700㎡の日陰空間しか作れない。そこで、四角形ハットのテントを引き詰めて配置するのではなく格子状に配置し、その骨組みの間に安価な遮光布を掛ける事とした。
テント生地は遮光性能が強く、その影が集まると奥まった日陰の印象になるが、その格子配置と遮光布を用いると、間々に緩い光が差し込む。色付きの遮光布としたので、そこを通った太陽の光は少し色のついた柔らかい光へ変化し、日陰の中に淡いカラフルな明るい空間が出現した。
その淡いカラフルな空間は、人々の動線をバッサリと遮る事なく、霧が漂っているようなゆるい仕切り機能を持ちながら、浮かんだ雲の下にできた影のような休息スペースを作り出した。
霧や雲を使って、人々の動線をどう導くか。
そして、霧や雲のような空間を、パビリオンではなくランドスケープデザインの一部として捉え、通り抜け出来る厚い壁のように使って、人々の動線をデザインする事とした。
出来た配置計画は、格子テント群がアイランドステージから伸びた両腕のように振舞い、お客さんを迎え入れるような、そんな配置である。道路をまたいで格子テントを配置していた事で、人々がアイランドステージへと吸い込まれていくような効果を生み出した。
道路によって隔離された島のような場所なので、アイランドと呼ばれたエリアだったのだが、テントの配置によって、その様子が無くなり、マリンスタジアムと地続きのような空間を作り出す事に成功した。
しかし、アイステージは、まだマリンスタジアムと距離があり、少し視認性が悪かった。その視線を受け止めるような機能であったり、アイランドステージの音や光がマリンスタジアム方向に伸びていくような機能を付け加えられないかと、最後に大きな白い遮光屋根を空に向かって斜めに設置する事とした。
両腕を広げたかのようなテントの格子配置と同じように、吸い込まれるような印象を作り出す為であったが、逆の捉え方をすると、マリンスタジアムに向かってメガホンが設置されているような空間となっている。その吠えるような様子は、若手アーティストのステージのデザインとして合っているように思えた。
4つのムードメーカー、パレット・お神輿・ガーランド・巻き段ボール。
カラフルでデザインとしての一体感を持つレゴパズルのようなモノで、場所場所の家具を代用できないかと考え、カラフルな8色プラスチックカラーパレットを採用した。W1100xD1100xH150という寸法が面白く、3枚重ねると椅子のようにも使えるのだけれど、机のようにも使え、ベッドのようにも使える不思議な家具になる。空間全体に配置すると、全体がカラフルになりつつも休息の機能が付加される。
求心性を作り出すためのフォトジェニックなオブジェの設置として、東京藝術大学の学園祭「藝祭」の名物と知られる御輿を採用した。デザイン科の学生達が制作した"桃太郎の部下達、猿、犬、キジ"を借り、そのままだと少し古風だったので、サマソニ仕様に改造してもらい設置となった。
せっかく派手なオブジェが置かれるのだから、その中心の空間を覆うような印象作り出す為に、高めの4本の柱を四周に設置し、テントと柱をカラフルなガーランド電球付きで繋いでいく事とした。少ない量でも覆われた印象や空間性を感じられ、オブジェが神殿に置かれたかのように、象徴的に見えるよう、あらかじめ立体的な検討をして高さを慎重に検討した。カラフルな旗はヒラヒラと動き、音が無くても空間に躍動感が起きている様が心地よい。
格子テント配置による弊害として、既製品のテントの脚が乱立する空間となり、それが目立って安い印象に見える事が懸念されたので、既製品テントの脚を隠す巻き段ボールをデザインした。上下方向などに構わずランダムに巻いていっても面白い印象になるように、カラフルなグラデーションを3種類印刷している。また、中央の4本の柱にも大きく巻いている。格子テントの中を通り過ぎるだけでも、楽し気な色彩に囲まれ、気分が高揚するような感覚を得られる空間となった。
夜にも、ゆったりとしたカラフルな光が、テントの下を照らす。
夜のライティングは、ステージのようなピカピカした興奮するような光ではなく、静かにゆっくりと変化する煙のような、リラックスできる雰囲気が漂う光を計画していった。ステージの興奮をロマンチックに思い出す場所になるように。それぞれのテントの頭に向けて、7色に変化する照明を設置してもらい、それぞれのタイミングをずらしながら変化させた。このHPの背景のような色の動きである。
外から見ると、テントのハットが七色に色とりどりに光って、夜の遊園地のような楽し気な印象を作り出している。内から見ると、テントのハットに光が反射して、地面とパレットに七色の光が降り注ぎ、地面全体がゆっくりと七色にグラデーションする空間となっている。そこに設置されたカラフルなパレットやグラデーション段ボール巻きも色々な色に変化するように見えて、空間全体が色でぼやけて滲んでいくような幻想的な空間となった。
現実感の無いカラフルさを持った空間の面白さ
一般的な建築や内装と違って、ずっとあったら飽きてしまうような派手さを作り出す事を最終的に求められていたように思う。かつ、短時間で設営出来て安価でなければならない。その問いには、設計業から日々脱線を意図的にしている為に、上手く答えられたように思っている。もともと極彩色が好きなのだけれど、空間全体で挑戦できる事はなかなか無いと思われるので、意欲的に関わる事が出来た。
夜になって、マリンスタジアムの後ろから空満開に花火が上がって、重さのない軽やかなカラフルさが視界中に広がった空間を通して、それが散っていった時、CGやゲームの中の世界に迷い込んだようであった。
通常の建築だとありえないフワフワした部材の印象や、カラーパレットの何処までも彩度の落ちる事のないマッシブな存在感や、変化し続ける効果的な光、その場所のフィールドの雰囲気だけを作るようなデザインの思考を見いだせた事が、上手くいった要因であるように考えている。
- SUMMER SONIC 2017 アイランドステージ
- 都市型ロック・フェスティバル
- 住所 幕張
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