小日向31番地 / 江戸川橋
●紹介
飯田橋・神楽坂に程近い江戸川橋地蔵通り商店街に面した、永らく空き家であった店舗付き住宅を、一階に店舗スペース二つ、二階にはSOHOとしても使える住戸を二つへとコンバージョンさせた複合施設。改修前は廃墟同然であったが、希少な”昭和”の”和風”な様式が随所にみられ、再生する価値を大に含んだ可能性に満ち溢れた物件であった。丁寧に剪定し要素を整え直し、その魅力を存分に引き出した建築として、不動産を再生させたプロジェクトである。
有効に活用されていない物件をどのようにして、利回り物件にしていくか?という“そもそも”の問題から、不動産会社と工務店と共に意見を出し合いながら、コンバージョンの内容を詰めていく事となった。
年: | 2018.11 |
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用途: | 複合施設 |
所在地: | 東京都文京区関口 |
設計施工: | ワシン建築事務所 http://washin.main.jp/ |
設計補助: | 湊健雄事務所 |
撮影: | 乙咩 海太 |
期間: | 2018.05-2018.11 |
宣伝: | 江戸端会議室 https://coubic.com/edobatakaigishitsu/394889 |
●昭和の和風に焦点を当てた、ディテールの積み重ねによるレトロフューチャーコンバージョン
コンバージョンとは、既存の建物を用途変更して再生させる事である。建物の躯体のみフォーカスし、リフォームされてしまう計画がほとんどであるが、今回は耐震補強計画とともに躯体以外の要素が持つ民芸的で和風様式の”愛らしさ”も含めてコンバージョンを行った。
建物の外観は表側に残っていた桃色の外装をそのまま残し、残りの部分は近似色で塗装を行った。その桃色が活きるように、軒先を3色に塗り分け、少ない手数で全体がシャレて見えるように工夫した。
要素を詰め込んだ和風建築は、用途と機能を軸に様々な再編集が可能であるところが面白い。残すところ・加えるところ・移動するところ、などプロセスの選択で真新しい建築物に勝るポテンシャルを秘めている。
印象的な外観は、テナントの目印となりやすく、建物が出来上がると同時に、和風イタリアンのテナントの入居が決まり、和風でレトロな内装をとにかく残した住居部分は、レンタルスペース・レンタルスタジオとして活用され始めた。
●二階住戸C、素材の残し方と光の間と奥の間の関係について
二階は料亭のような細かなしつらえが随所にあり、相当凝った内装であった。極力そういった状況を残せるよう計画した。
今の住宅ではめったに見られない全て木が張られた天井、存在感のある長押や飾り窓、所々の変わった巾木、その場にあったアンティークな照明もメンテナンスを行ってそのまま採用している。壁の色も汚れてひどい状況であったけれど、「桃肌色・薄緑色・深緑色」に塗り分けられており、それを模範として塗り直した。襖や障子などの建具は、心材が再利用できたので、紙を張り替えて使用している。特に襖は、内装のトーンに合う派手で面白い紙を敢えて選んでいる。ワビサビではない、それぞれが主張しつつバランスするオモシロ和風の在り方を目指して。
新たに追加した内装材は「床材」。一見、天然素材のように見えるが、賃貸物件なので安価で掃除のしやすいモノにする必要があり、塩ビシートを使っている。既存は畳と木張りだった。なぜか一部に玉砂利の床があったので、そこに関してのみ、メンテナンスを施し利用している。
そして、前面通り側のスペースは、光がよく差し込む部屋で、奥まって床の間のあるスペースは、静かに佇む深緑の部屋となった。
奥の間は壁の色が深く、採光については当初から心配されていたが、窓の光が届く部分は壁にはせずに障子を用いて、光の拡散・光の透過・仕切りの開放によって、光が奥の間まで到達するように工夫した。既存では一部襖になっていたが、本来の日本の住宅にあった採光の概念を再利用している。そして、夜はとても静かで暗くて居心地が良さそうである。
●二階住戸D、三重船形天井と木々内装について
改修前の空間はこれまでの増改築により、形状の異なる二つの船形天井と平滑天井が混在していた。平凡な平滑天井を取り払う事で、さらにもう一つの船形天井とロフトを出現させ、「三重船形天井」の部屋を計画していった。本来の建物のファサードが、ロフトの壁面に見えていたりする部分も不思議で魅力的である。
解体の途中では、木の柱や梁に残った反復する模様を発見した。とても綺麗だったので、それにあわせて内装材には木が連なったような柄の壁紙や床材を選んで使用している。三重船形天井によって分けられた空間がさらに混じり合うように、壁紙は3種類を切り替えて使用した。
そこにあった凸凹のある空間をさらに凸凹させる。形や表情の異なる本物の木やフェイクの木で空間を囲む事で、生活空間に心地よいリズムと多様な表情をもたらしている。木調建材の多重編成によるバランスに挑戦した。
●和風デザインの先について
内外共に昭和・明治・平成の和風な雰囲気が入り混じる、放置されたモノたちを捨てずに丁寧に磨きあげる。
レトロで素敵な色々な素材や建具や照明を大切に残し、その印象を足したり引いたり、乱雑に広げつつも、違和感が感じられないように少しだけまとめていく。ノスタルジックも未来につながるものとして仕上げる。丁寧に選んで、時間をかけて、部分部分は見たことがあっても、総体としては見た事のない「和風」な空間を作り上げる。
以前設計した居酒屋で考えていた日本の和風が入り乱れた混沌和風と、さらには昭和の不器用で愛らしいレトロな雰囲気までも、和風として取り込んでいく。
たぶん、最近、特にヴェイパーウェイブという音楽が好きだから、そのせいかもしれない。もしくは、ニューレトロというジャンル。色々な建材の好きな部分をサンプリングして、新しい調和を計画していきたい。
新助 アトレ新浦安店 / 新浦安
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ART&LOGIC / 初台
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