たつのこ荘オートモアイルーム / 王子十条
●紹介
王子にあるアパートのアート改修プロジェクト。ソーシャルアパートメント、一部が民泊施設となる予定。今回は一部屋のアート改修を行なった。BCTIONというアートイベントのディレクターであるカメラマンの嶋本さんに、知人モデルのエイミーさんと空間を被写体として、空間写真を撮影してもらった。
年: | 2018.10 |
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所在地: | 東京都北区岸町 |
延床面積: | 15.1㎡ |
設計施工: | ワシン建築事務所 http://washin.main.jp/ |
壁面デザイン施工: | オートモアイ http://auto-moai.tumblr.com/ |
アートディレクション: | 湊健雄事務所・E-cus |
床デザイン施工: | 湊健雄事務所 |
写真: | 嶋本丈二 https://www.jojishimamoto.com/ |
モデル: | エイミー http://caelum-jp.com/work/management/amy |
設計期間: | 2018.07-2018.09 |
施工期間: | 2018.10 |
●建物と計画について
王子にある少し開発の遅れた一角にアパートがある。住戸の半分は空き家となっており、賃貸層の若年齢化を図りたいという話が来たので、アート作品の場所を提供し、賃貸物件でありつつ作家の応援施設として活用する試みを提案した。
作品を部分的に共有スペースに設置する事で、近隣の学生やバックパッカーなどの若い層に物件をアピールしつつ、入居させる企みである。
●アート企画とデザイン施工
芸術家の作品の設置場所を増やす事をモットーの一つとして、湊事務所はE-cusとしても活動しているので、若手美術家による空間的なアート作品を企画監修する計画とした。
何人かの美術家の作品を施主に見せ、若手作家のオートモアイの作品を気に入ってもらえたので、オファーを出しコラボレーションしてもらう事となった。オートモアイは、“消費されていく匿名の20代女性”という若者の生活をテーマとしながら、最近では鮮やかな内装の中の“顔のない女性”を描いている。
他社によるアート改修の事例はいくつかあるが、美術家だけに施工を任せたり、中途半端な範囲でしか作品を表現できなかったり、空間全体で見せるような作品に至らない事例を多く見てきた。そうならないように計画していった。
●今回の壁面グラフィック塗装について
今回のオートモアイとのコラボレーションの中で面白かったのは、色数を抑えた作風が、殊の外、範囲の大きい塗装現場との相性が良い事だった。
色数が多い絵だと、絵の具を調色する時間が掛かったり、その量を把握しつづけるのが難しかったり、また、混ぜた絵の具は発色が良くなかったりして、施行前後に大きなギャップが生まれやすい。が、今回のケースだと、日塗工品番の中から、発色が良いと思われる色味を何色か選んでもらい、調色の済んだ缶を現場へと調達する事が出来るので、仕上がりのイメージとのズレと抑えることができた。追加をしても色が変わらない。塗り残っていたり、荒い部分も。こちらで綺麗に塗りなおす事が出来る。美術家の施工タイミングの調整で、スケジュール的に時間を取られる事が多いので。ある程度、任せ合って分業できる点が非常に良かった。
次に面白かったのは、物体や対象がイメージとして大きく描かれた空間にも関わらず、透明感のある奥行きだったり、空間のうごめきみたいなものが、そこに感じられる事だった。
町中に描かれているようなグラフィックは、それが対象物を描いていればいるほど、街並みから浮いてしまうような見え方をしてしまう事が多く、それが迫って見えてくる。広告としてはいいのかもしれないが、風景やデザインとして居心地の良いモノではない。湊事務所では、模様や記号である事で街に溶け込むような塗装方法を実践していたのだけれど、オートモアイさんの今回のグラフィックは、記号と物体の間のようなイメージとなっていて、そういった近づいてくるような印象が少なくて不思議だ。その間を空気がすっと抜けてくる印象があって、逆にその背後に部屋以上の空間の広がりを感じる。大部分はマットに仕上がっているのだけれど、黒色のラインのみを艶っぽくしてある。時々、そのラインが消えて見えるような瞬間があって、イメージの輪郭を動かすような効果も、そのさざめきに一役買っているのかもしれない。
●床のデザイン制作施工について
アート改修されたホテルの床や天井や家具などを見ていると、つまらない建材が敷かれたままであったり、モルタルの荒い床をそのまま見せていたりで、せっかく美術家が壁を良くしたのに、他には何もしようとしない感じは興ざめだなと感じていた。なので、今回のプロジェクトでは、費用も抑えつつ、どこか一か所、例えば床に対して新たなデザインの一手を指して、作品との一体感を生み出したいと考えていた。
今回の床は、作家と慎重に相談しながら質感と色を決めていったので、作家の作品の一部となっている。背景のオレンジと植物の緑の近似色、そして、グラフィックの白と天井や柱の茶色との中間色のベージュ色。砂の上をオレンジの空気と緑色の葉っぱが風に流れて抜けていくような、色彩が狭い部屋を通り抜けて広がっていくような雰囲気を、グリッドを菱形にデザインした事で醸し出している。
畳のような格子模様だと、ピシッと正座をしないといけないような感覚になってしまうけれど、菱形の模様だと、流れに身を任せて寝転んでゴロゴロしているのが居心地良さそうに見える。面白い効果が生まれた。