新助 アトレ新浦安店 / 新浦安
紹介
千葉県・新浦安駅高架下のアトレの一階にある、同地域にて20年以上続く200席程の魚居酒屋の老舗。
カウンターに立つオーナー自らが築地市場で新鮮な魚を仕入れ捌いているので、チェーン店ばかりの同地域の中で魚料理が格段に美味しく、それでいて価格が手頃と評判。
仕事帰りのお客様に限らず、昼のランチには列が並び、夕方になると家族連れから年配のお客様で賑わい、地元の老若男女に愛されている。
年: | 2016.11 |
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用途: | 大衆居酒屋 |
所在地: | 千葉県浦安市入船1-1-1 アトレ新浦安1F |
延床面積: | 380㎡(内、改装280㎡、既存補修100㎡) |
共同設計: | 株式会社小川都市建築設計事務所 小川裕之 |
施工/照明計画: | 株式会社リンク |
加工協力: | 株式会社エイペクス |
写真: | 大瀧格 |
設計期間: | 2016.01~2016.10 |
施工期間: | 2016.08~2016.11 |
耐震補強工事に伴う店舗原状回復工事を新装工事へ
JR東日本では先の東日本大震災を受け、2012年以降、JRの様々な駅で耐震補強工事が行われている。テナントスペースに耐震補強工事されるべき柱があった場合、その柱の周りの内装は壊され、元の状態へ作り直される計画となる。今回のテナントでは、調理場全体と、お店のメインとサブのカウンタースペースが作り直される事となった。
すでに10年以上経った内装を同じように作り直すのであれば、その予算で新しいデザインの内装に出来ないかという依頼をいただき、プロジェクトをスタートした。ただし、レイアウトに関しては培ってきた様々な経験を元に生まれた最適なものなので、部分的には改良はするが、大幅な変更しないで進めたいという要望であった。
レイアウトや工費は変えず、何を変化させてどのように雰囲気や空間性を変えていくのかを示すことが重要なポイントとなった。そして、今回の施主は、実は店舗オーナーではなくJRである。耐震工事の進み方とのバランスを取りながら内装工事を進める事を求められた。
全体計画と素材について
以前は、視線を遮り照度を落とす事で落ち着ける雰囲気の一般的な居酒屋であった。店舗空間を細分化する間仕切りを木製建具で障子にするなど、いわゆる昭和風居酒屋の雰囲気を保っていた。会社員達が居心地が良さそうな雰囲気。
しかし、この店舗の主な客層は新浦安という新興の住宅街に住む地元の方々である。なので、世代を超えてワイワイとお酒を楽しめるよう、見通しが良く軽やかでほんのりと明るい開放的な空間になるように計画していった。
また、様々な世代が集まるのだから、いわゆる昭和感という和風の概念を広げ、過去〜現在の日本という幅をもったデザインソースによって空間のデザインができないかと考えた。
そこで選んだのが、縄文時代のような柄や色合いの、土、陶器、木を模した素材たちである。乾いた土のような明るいベージュ色を基調としその原初的な素材と、LED照明の特徴である陰影の生成と極薄の構造を組み合わせたデザインを組み合わせた。
館の中の店舗入口の設計
以前の入口は、いわゆる和風居酒屋にありがちな重い木の扉・門の雰囲気であったが、なるべく敷居を感じさせず、店内の様子へと自然と視界が開かれるように、シンプルにガラスの自動ドアのみを設置した。商業施設であるアトレの内部店舗なので風除室は不要であり、無理にスペースをそこで区切る必要が無いため、それが実現した。館の条件によるところが大きいが、奥に見えるカウンターを核とした活気が店先の記憶として残る軽やかなお店となった。
メインカウンターを店舗の中心に
改修前は、メインのカウンタースペースは部屋として分けられ、入口から見えない構成となっていたが、今回は、カウンターで魚を捌くオーナーや板前の様子が空間の核となるよう、店外からであってもその立ち居振る舞いと雰囲気が伝わるよう、間仕切りを低く作り直し、開放感のあるつくりとした。
魚を捌き・提供する様がエンターテイメントとして楽しめるようカウンター回りの空間には、白い浮き天井・光るパーテーション・照らされた店名ロゴ・カウンター下の明るい足元などを配置し、加えて照度を抑えた客席の吊り照明などで彩る事で、その周辺が明るく楽しい華やかな舞台となるように設計した。
舞台に立つ職人の活気や情熱や丁寧さが、明るい光となって店舗全体を照らし、伝わっていくような演出である。同時に、間仕切りを低く作り直す事で、カウンターに立つオーナーや店員がフロア全体を見渡せる状態を作り、滞りない店の運営の手助けになるような計画にもなっている。
光るパーテーション
「カウンター席とテーブル席のお客様の目線が交差しないようにしたい」というオーナーからの要望があり、カウンターのお客様が落ち着いて料理やお酒が楽しめるよう、間仕切りをどこまで下げられるかが、空間の雰囲気を操作する一番重要な要素であった。
そこで、開放感とプライバシーを両立するため、高さを抑えた樹脂パーティションに照明を入れて、柔らかな光によって目線を遮る事とした。目に入りやすい高さなので照明による眩しさを懸念したが、圧迫感を感じさせずに軽やかに仕切る事が出来た。
●オリジナルのプロダクト・筆のかすれを表現した看板
以前のロゴは清々しい印象を持ったフォントであったので、オーナーとしても自分の中にある熱い情熱との違和感があり、江戸文字・籠文字にしたいという要望であった。見たことのない新しいお店にしたいという要望であれば、店名ロゴに対しても同じような姿勢で取り組みたいと考えた。
知人であり書道家の[ 紅舟 ]に、オーナーの人柄と情熱を感じ取ってもらい、見ただけで思いが伝わるような文字をロゴとして提案した。書かれた文字は、江戸文字のように太くがっしりとしたモノでありながらも、形が柔らかく崩れ、軽やかで躍動感のある楽しそうな印象のものである。そして、貫禄がある。
書の躍動感という表現の質を最大限残した状態でデータ化を行い、黒アクリルをレーザーカットし、そこに透明なUV樹脂をポッティングし、ステンレスプレートに張り付けて看板とした。店内のカウンターにある灰色の文字看板も同様に施工し、漆を盛ったような艶感が目立つ看板となった。
その制作は全て設計事務所の作業で行われ、一般的な設計業務の範疇を超える仕事が出来たように考えている。
- 新助 アトレ新浦安店
- 居酒屋
- 住所 千葉県浦安市入船1-1-1 アトレ新浦安1F
- 運営 有限会社エイム